この映画、公開されるまでさほど興味はなかったんです。ニノさんが主役なのは驚きましたが、今まで多くの企画モノ邦画を想像していたところがあり。
が、公開された後の評判を見ると「あれ、なんかいつもの邦画と違うっぽいぞ?」という雰囲気だったので、急遽見てきました。土曜日の映画館には小学生グループ、親子連れ、カップル、老夫婦まで揃う大衆向け映画らしい客層で賑わっていました。
そして感想ですが、「なるほど、これは確かによくできた邦画だ」ということ。しかし気になる点もあり個人的には絶賛には至らずという感じです。
映画らしいルックをまとっている
まず主演のニノさんはアイドルではあるが、日本の俳優界においてはトップオブトップの存在であり、その辺のぽっと出のアイドルを主演に据えた映画とは格が違っています。実際の演技も、なにか追い詰められた心境だったり、恐怖のシーンの鬼気迫る感じだったりがすばらしく、8版出口というゲームが映画としてストーリーを纏うことに説得力を与えていました。さらにお相手の役に小松菜奈さん。シンプルに立ってるだけで美しい。しかし広告にも出てこないくらいに小さく扱われている。これは従来の邦画ではあまりない「異変」かも。作品性が重視された姿勢を感じます。
劇伴には「ボレロ」がフィーチャーされ、この曲自体がループ的な曲であることと相まって映画の雰囲気を上げてくれます。エンドロールで変なタイアップ曲が流れることなくビシッと決まったのには拍手を送りたくなりました。これも従来の邦画にはない異変。
タイトルが黄色いキーカラーが単色でバーンと出る感じ、キューブリックですねーという期待の高まる雰囲気をまとっています。この間見たこの映画をちょっと思い出す。
ソリッドシチュエーションでループもの
映画で言えばCubeやらSawやらのいわゆるソリッドシチュエーションスリラー的なものはB級作品も含め玉石混交な状態であり、「ループもの」というゲーム的なモチーフもトム・クルーズが主演する程に擦られまくっています。
で、8番出口のゲーム自体もそれらに影響を受けているであろうし、鶏が先か、卵が先か的な関係にあるわけですが、この映画はそういった最近の流行を取り入れた構成、ルックをまとっていて、A24っぽさだったり、ノーランっぽさだったりのトレンドを感じつつ、「ちゃんとした」映画の雰囲気をまとっています。ホラー映画としても怖いシーンはちゃんと怖く、ジャンプスケア的なのもありましたが、じわじわと来る感じの強さも味わえました。
原作から肉付けされた内容がうまくいっているところ
原作は1シチュエーションの低予算インディーゲーであり、普通に遊んでも1時間程度でクリアできてしまうボリュームなので、それをそのまま映画化すると尺足らずになってしまいます。
それをどうやって肉付けするかが映画化の肝なわけですが、これは一定の成功をしているように思いました。少なくとも原作ファンがこんなの8版出口じゃねぇとブチギレるような改変ではなく、新鮮な驚きがありつつ、楽しめる肉付けとなっています。特に通行のおじさんの河内さんの演技の魅力と、彼にまつわる脚色には意外性がありとてもよかったです。
そして、この手の特殊な舞台設定の作品において「説明がされすぎてしまう」ということも起こりがちなのですが、今作は珍しくその塩梅がよいと思いました。
なぜこのようなことになっているのか説明がまったくないのも腹立つし、説明ありすぎるのも冷めるところ、「なるほど、そうゆう理屈なのね」という示唆は説明的でないがはっきりと示される感じでこのバランスは邦画であまり見たことがないなと思いました。
で、ゲームにおけるクリア、それが映画のストーリーとしての結末はどうなるのか、この終わらせ方もしっくりくる落とし所になっていました。映画においては主人公がどういった心情の変化があり行動を起こしその結果どういった未来へ向かうのか、このループが何を意味してそのループからどう脱するのか、なにかすごいオチを期待すると肩透かしかもしれないですが、これもかたちよい映画の終わり方だと思いました。
という感じで、全体的に欠点の見当たらない映画に思えるのですが、個人的に気になってしまった点がいくつかあり、それによって絶賛には至らなかったというのが正直なところです。
気になった点についてはここからネタバレをして話していきます。
でも、良くないと思う肉付けがある
どうしても乗り切れなかったポイントの1つ目は赤ちゃんの件。
「赤ちゃんの存在により父親になることを認めるかどうかの葛藤」って令和でもまだやりますか?っていう引っ掛かり。
しかしこの赤ちゃんが実はこの少年で、彼との交流によって自分の未来が変わるというストーリー的に意味のあるものになってはいたのだけど、小松菜奈と子どもの扱いがあまりに記号的すぎるのもあり、恐怖シーンでやたらと赤ちゃんの鳴き声が強調される感じもなんか嫌な感じがしました。
倫理的なテーマを「赤ちゃんってこわいよねー」という軽い扱いで使われている感じというか。
あともう1つは「津波」
これ原作再現ともいえますが、原作は厳密には「赤い水」だったわけです。それが映画では警報が鳴って、濁流とともに大量の漂流物が飛んできて、そのシーンの後には空撮で海岸線を写し、明確に「津波」という表現に変わっていました。これもまた嫌な感じでした。
いや、津波を扱う映画は良くないということではないんです。ちゃんと扱った映画ならむしろ見たいのですが、本作にはそれを語る必然性を全く感じませんでした。津波の方が普通の水より怖いよねー?ってこと? で、子どもを助けて自分が流されたりするシーンが物理的に絶対無理じゃね?っていう津波への抗い方、そして大量の粗大ごみとともに流された後、何事もなく生きてるニノ、まぁそうゆう世界なんでと言われればそうなのですが、津波の扱い方が雑い、津波にする意味を感じないというところに嫌悪感を抱きました。
あと、主人公の「喘息」これもよくわからなかった。喘息だとよりつらいよねーっていうことなんだろうけど、物語的にプラスになってないように思いました。私は喘息じゃないので喘息の人の苦労がわからないってのがあり、ゲームの主人公的な自分自身を投影して感情移入したい感じのニノに対して、喘息という気持ちがわからない苦労をしていることで離れてしまう感じ。この設定必要だったのか疑問に思いました。途中から気にしなくなっちゃうし。
ゲーム的な映画、映画的なゲームの間で
今や完全ワンカット、完全主観視点のゲーム的な映画もあれば、完全に映画的なカット割りと映画的演出のゲームが大量にある時代であり、両者の垣根はなくなっているわけですが、本作、ワンカット的で主観的なゲーム寄りの見せ方とその逆の使い分けがうまくいってなくね?と思うところがありました。
特に中盤に至るまでの異変の連続のモッサリしたテンポ。ずーっとニノの行動を後ろからカットせずに追い続ける感じで、これがゲームなら自分自身が操作をしているということといつ何がおきるかわからない緊張感で持つのですが、映画だとちょっと退屈に感じてしまいました。
かと思えば途中からカットは普通に切り替わるところも出てきて、じゃぁ別にワンカットぽくやらなくてよかったんじゃ?と思ったりするモヤモヤ感。
という感じで全体の作りは良いのだけど、いくつかのディテールが気になって乗り切れなかった。というのが個人的な感想です。
しかしこれだけレベルの高い作品が邦画で全国的に大ヒットしているということはすごいことだなと思ったので、こういった作品はこれからも増えていったらいいなと思いました。





コメント