池袋シネマ・ロサ単館で公開され口コミで話題が広がり、全国100館で公開中の「侍タイムスリッパー」、「カメ止め」的な現象が再び起きているということで、さぞ面白いんだろうと思って見てきたらやはり面白かったです。
とっても熱く笑い泣ける作品でした。
監督の安田淳一さんは本業は農業の傍ら自主制作で監督3作目、予算2600万を自ら調達されたそうです。本格的な時代劇ネタを扱い、大衆向けの題材を自主制作で作ってしまっているところがすごいです。
よくありそうなタイムスリップコメディ設定
あらすじは、幕末の侍がタイムスリップして京都の時代劇の撮影所にタイムスリップしてしまい・・・という、こと日本のタイムスリップもの、これまで擦られ続けているネタに感じますが、京都の時代劇映画の撮影クルーに混ざるというヒネリと、その1アイディアからぐいぐい引き込まれるテーマ性、脚本の上手さとキャラクターの魅力に引き込まれ、泣ける展開へと広がります。
時代ギャップ笑いの絶妙な塩梅とテンポの良さ
侍が現代の世界をどう理解して物語が進んでいくのかを見守る前半ですが、あらゆるものがネタになりそうなところともすればテンポも落ちてクドくなって飽きてしまうことがありがち(例:翔んで埼玉の中盤以降)なのですが、お寺のテレビで時代劇を初めて見て熱中するくだりで、わからないなりにすべてを理解して、そこから次の展開にスムーズに移行するところなどは、上手いと思いました。そこからこの物語のテーマ性が浮かび上がり、ダレるどころか次の展開への熱が高まっていきます。
また、タイムスリップものに必ずと言っていいほどある展開、自分がタイムスリップしてきたことを周りにどう明かすか、そしてどうやって元の世界に帰るのか、これらについて今作ではなんと、その両方の展開もないというのが斬新だと思いました。これは監督がインタビューで「絶対におもんなくなるから」という理由で意図的に排除した要素らしく、このあたり上手いなと。
主演の山口馬木也さんの侍としての佇まい
出てくる役者さん、すべてが今までテレビでは見たことのない方ばかりなのですが皆良いハマりっぷりで、特に主演の侍さん、西島秀俊さんと山田孝之さんと沢村一樹さんと正統派おじさん俳優らを足して人数で割ったような顔立ちをされていながら、侍としての自然な佇まい、わざとらしくないコメディセンスが物語に説得力を増しています。これは脚本、演出のセンスとの相乗効果を感じました。おかしな人ではなく状況が面白くしてしまうというシットコムの描き方が貫かれ、クライマックスの真剣な表情には涙腺が刺激されます。
中盤から終盤への盛り上がり
中盤に転機を起こすあるキャラクターによって、物語が大きく展開し、そこから終盤にかけて熱いクライマックスを迎えます。幕末と現代、タイムスリップした間に何があったのか、それが現代にもつながる普遍的なテーマを浮かび上がらせます。
そして幕末と現代の対比はさらに、時代劇と現代劇、侍と役者、これらとも相似した構造を描き出し、現代人である観客はストーリーに取り込まれて、気がつけば時代劇に夢中になる新左衛門と同じく「侍タイムスリッパー」に夢中になっていることに気がつきます。
笑えるシーンと泣けるシーンが振り子のように増幅していく理想的なコメディ映画でした。
語り継ぎたい名作です。安田淳一監督の次の作品が楽しみです。
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